
糖尿病や肥満症の新しい治療薬として注目を集めている「マンジャロ(一般名:チルゼパチド)」。
これまで「なぜこれほど体重が落ちるのか?」というメカニズムについては、食欲を落とすことがメインと言われていましたが、動物実験の段階では代謝を上げる効果もあるという報告がありました。今回、ヒトでも実際に「代謝(エネルギー消費)を直接上げて痩せさせている」という極めて興味深い最新の臨床研究が報告されました。今回はその内容を紹介します。
1. 体の中にある2種類の脂肪|「貯める脂肪」と「燃やす脂肪」
「脂肪」と聞くと、お腹まわりにつく余分なお肉をイメージされる方が多いと思います。しかし、実は私たちの体内には役割がまったく異なる2種類の脂肪細胞が存在します。
| 脂肪の種類 | 特徴と役割 |
|---|---|
| 白色脂肪細胞(はくしょく) | 余ったカロリーを中性脂肪として蓄え、肥満の原因になる「貯蔵庫」のような脂肪。 |
| 褐色脂肪細胞(かっしょく) | 内部に多くのミトコンドリアを持ち、糖や脂肪を取り込んで熱として燃やす「体内ヒーター」のような脂肪。首のまわりや鎖骨付近にわずかに存在します。 |
年齢とともに基礎代謝が落ちて痩せにくくなる大きな原因の一つは、この「褐色脂肪細胞」の働きが衰えてしまうことにあります。
2. 最新の臨床研究「TABFAT試験」がヒトで証明したこと
これまでマウスなどの動物実験では、「マンジャロを投与すると褐色脂肪が活性化して体温が上がり、エネルギー消費が増える」という現象が確認されていました。
しかし、「人間の体内でも本当に同じことが起きているのか?」は長年の疑問でした。
その疑問に答えを出したのが、国際的な学会で報告されたTABFAT試験(Tirzepatide Brown and Beige Adipose Tissue Activation)です。
【TABFAT試験で明らかになった主な成果】
- 褐色脂肪細胞の活性化率が大幅に向上
PET/CT検査を用いて検証したところ、マンジャロ(チルゼパチド)を投与した群では、褐色脂肪組織の活性化が治療前の約41%から約65%へと有意に増加しました。 - 「白色脂肪のベージュ化(燃やす脂肪への変化)」を誘導
本来は脂肪を溜め込むだけの白色脂肪細胞が、熱を産生する「ベージュ脂肪」へと性質を変える兆候が確認されました。 - 体重減少とは独立した直接の代謝アップ効果
単に体重が減ったから代謝が変わったのではなく、薬剤そのものが脂肪組織に直接働きかけてエネルギー消費を高めていることが示唆されました。
3. 「食べる量を減らす」だけではない、マンジャロの独自メカニズム
これまで糖尿病や減量の治療で使われてきた従来の「GLP-1受容体作動薬」は、主に以下のような働きで体重を落としていました。
- 脳の食欲中枢に働きかけて食欲そのものを抑える
- 胃の動きをゆっくりにして満腹感を持続させる
これらは非常に有効ですが、作用としては主に「入口(摂取カロリー)を減らす」アプローチでした。通常のダイエットでもそうですが、食事量を減らすと身体は省エネモードになり、基礎代謝が落ちて停滞期に入りやすくなります。
しかしマンジャロは、食欲を抑えるだけでなく、褐色脂肪やベージュ脂肪を刺激してエネルギー消費を底上げする(出口を広げる)という両面からのアプローチをヒトの体内で行っていることが裏付けられたのです。
4. なぜ従来のGLP-1製剤よりも体重が減るのか?
マンジャロは、世界初となる「GIP / GLP-1受容体デュアル作動薬」です。GLP-1だけでなく、「GIP」というもう一つの消化管ホルモンの受容体にも同時に作用します。
脂肪細胞の表面には、このGIP受容体が豊富に存在しています。
「GIP受容体とGLP-1受容体の両方を同時に刺激することによって、脂肪組織のヒーター機能(褐色脂肪の活性化・ベージュ化)が強力にオンになる」――これこそが、マンジャロが従来のGLP-1単独製剤と比べて体重減少効果を示す最大の理由なのかもしれません。
5. 最後に
医療の進歩により、「痩せられないのは本人の意志が弱いから」という時代は終わりました。肥満や糖尿病は、脳やホルモン、脂肪組織の複雑な代謝異常が関わる医学的な疾患です。
八女市黒木町の冨田医院では、ただ数値を下げる対症療法にとどまらず、最新の医学的知見を取り入れながら、患者さん一人ひとりの代謝状態や生活スタイルに合わせた減量・糖尿病治療を行っています。
「健康診断で数値が高かった」「食事制限を頑張ってもなかなか体重が落ちない」「将来の合併症を防ぎたい」とお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
八女市黒木町
冨田医院 医師 岡田 一樹