
こんにちは。冨田医院、医師の岡田一樹です。
当院の減量外来には、「健康になりたい」「体を軽くしたい」という願いを持って来院されます。
しかし、減量(ダイエット)と聞くと、多くの方が「我慢」「つらい食事制限」「きつい運動」といったネガティブなイメージを抱かれるのではないでしょうか。当院の診察室でも、どこか暗い表情で「また間食をしてしまいました…」とご自身を責めてしまう患者さんを多くお見かけします。
そもそも、なぜ私たちは減量をするのでしょうか?
体重の数値を減らすことは、あくまで「手段」にすぎません。その先にある本当の目的は、体が軽くなることで趣味を楽しんだり、大切な家族と笑顔で過ごしたりして、「人生の質(QOL)をより良くすること」にあるはずです。
減量はどうしても我慢することが多く、ネガティブな雰囲気になりがちですが、すべての患者さんに共通する「人生の質を良くしたい」という願いを叶えるために、近年注目されている「ポジティブ心理学」の考え方を取り入れてみるのも、ひとつの良い方法かもしれません。今回は、つらい我慢のダイエットから、少し視点を変えて前向きに取り組むためのヒントをお話しします。
1. ポジティブ心理学とは?「病気がない=幸せ」ではないという視点
従来の医学や心理学は、「マイナスをゼロにする」アプローチが主流でした。例えば精神医学においては、うつ病の治療は「うつ病という症状(マイナス)をなくすこと」を目指してきました。
しかし、近年アメリカを中心に、軍や経済政策、セラピーの現場などでも取り入れられている「ポジティブ心理学」では、少し異なるアプローチがなされています。その創始者であるマーティン・セリグマン博士らは、「うつ病がない状態(ゼロ)は、それだけで『良い人生(プラス)』を送っていることを意味するわけではない」と提唱しました。
ただ不調がない状態を目指すのではなく、人が本来持っている強みを活かし、生きがいを感じて生き生きと暮らす状態=「ウェルビーイング(Well-being)」を高めることに焦点を当てるようになってきているのです。これは、減量外来における「ただ体重を減らすだけでなく、毎日を笑顔で元気に生きる」という目標にも、非常に参考になる考え方と言えます。
2. 幸せを構成する5つの柱「PERMA」を減量の参考にしてみる
ウェルビーイング理論では、人間の幸福や豊かさは「PERMA(パーマ)」と呼ばれる5つの独立した要素を満たすことで高まるとされています。もしこれらを日々の減量生活のなかに少しずつ取り入れてみるとしたら、どのような具体例が考えられるでしょうか。
P
Positive Emotion(ポジティブ感情)
喜び、感謝、安らぎ、希望といった前向きな感情です。減量中に「あれも食べられない」と制限ばかりに目を向けると、脳がストレスを感じてリバウンドの原因にもなりかねません。
【取り入れ方の例】
「ごはんを減らして寂しい」ではなく、「今朝食べた新鮮なサラダがシャキシャキして美味しかった」「体が軽くなって、朝散歩したときの風が気持ちよかった」といった、日々の小さな心地よさや喜び、体に優しい選択ができた自分を認めてあげることに意識を向けてみるのはいかがでしょうか。
E
Engagement(没頭・エンゲージメント)
時間を忘れて何かに深く集中している状態(フロー状態)のことです。人は退屈しているときや、手持ち無沙汰なときに「なんとなく口寂しくて食べる」という行動に走りやすくなります。
【取り入れ方の例】
ご自身が昔好きだったことや、没頭できる趣味(園芸、手芸、読書、黒木町の自然のなかでの写真撮影など)に触れる時間を少し増やしてみるのも手です。何かに夢中になる時間は、ストレスによる「偽りの食欲」から自然と距離を置く手助けになってくれます。
R
Relationships(豊かな人間関係)
他者との温かい、信頼できるつながりです。減量を「自分だけの孤独な戦い」にしないことが大切です。
【取り入れ方の例】
当院の診察室でも、患者さんの「今週はこんな工夫ができたんですよ」というお話を嬉しくお聞きしています。ご家族に協力してもらったり、私たち医療スタッフをサポーターとして頼っていただいたりしながら、周囲とのつながりを力に変えていくことも効果的です。
M
Meaning(人生の意味や意義)
「自分は価値ある目的に対して意味のある生き方をしている」と感じることです。
【取り入れ方の例】
「ただ体重を減らす」という義務感から一歩踏み込んで、「元気になって、もっと元気に畑仕事をして美味しい野菜を家族に届けたい」「孫と一緒に走り回れるおじいちゃん・おばあちゃんでいたい」といった、“減量の先にある人生の目的”を心にとめておきます。目的が明確になると、食事の選択が「つらい制限」から「未来への投資」へと変化するかもしれません。
A
Accomplishment(達成・達成感)
目標に向かって進歩していると感じることです。最初から大きな目標ばかりを見つめていると、途中で燃え尽きてしまいがちです。
【取り入れ方の例】
「今週は毎日コップ1杯の水を多く飲めた」「夜の白米を一口分だけ残せた」。こうしたどんなに小さなスモールステップでも、できた事実を自分で認め、達成感を味わうことで、モチベーションが自然と維持しやすくなります。
3. 自分の「強み」を武器にする:VIA強みテストの活用
ポジティブ心理学のひとつのアプローチとして、「VIA(Values in Action)強みテスト」というものがあります。これは、人が持つ24種類の強みのうち、ご自身に強く備わっている「特徴強み」を客観的に見つけるためのテストです。
減量において、「意志の弱さ」といった自分の弱点ばかりを無理に克服しようとすると、とても消耗してしまいます。それよりも、「自分のすでに持っている強みを活かす」というアプローチを考えてみると、よりスムーズに取り組めるかもしれません。
【強みを活かした減量プランのアイデア例】
| 例えばこんな強みがあれば… | このような工夫を考えてみる |
|---|---|
| 「向学心(学ぶことが好き)」 | カロリーの計算方法や、血糖値の上昇を防ぐ栄養学の仕組みを学び、納得した上でゲームのように知的に楽しんで取り組んでみる。 |
| 「審美眼(美しいものが好き)」 | お皿の盛り付けにこだわって彩り豊かなヘルシー料理を作ったり、黒木町の四季折々の美しい景色を眺めながらの散歩を楽しんでみる。 |
| 「協調性(チームワーク)」 | 家族や友人に「今こういうことに取り組んでいるんだ」と共有し、一緒にヘルシーな食事作りにチャレンジするなど、周囲と協力して進める。 |
「自分にとって心地よく、得意な方法」を知っておくだけでも、健康的な体づくりへのハードルはぐっと下がります。
おわりに
減量は単なる「つらい体重測定の日々」で終わる必要はありません。患者さんがご自身の強みを見つけ、日々のなかに喜びや意味を感じ、より笑顔で輝く毎日を送るためのサポートができれば、これほど嬉しいことはありません。
もし今、一人でつらい食事制限や運動に悩まれているなら、どうかご自身を責めずに、一度お気軽に当院に相談下さい。これからの人生をより良く、より豊かにするためのパートナーとして、一緒に歩んでいきましょう。
冨田医院
医師 岡田 一樹