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肥満症の治療の新たな選択肢。ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)とは何か?

前回のブログでは、近年メンタルヘルスや行動変容の分野で世界的に注目されている心理療法「ACT(アクト:アクセプタンス&コミットメント・セラピー)」について、肥満症の治療における認知行動療法の限界。なぜ当院の減量外来は「ACT」を導入するのか?で解説しました。今回はその具体的な中身について解説してきます。
ACTを一言で表現するなら、「ネガティブな感情や欲求を無理に抑え込もうとせず(ありのままを受け入れ)、自分が本当に大切にしたい人生の目標(価値)に向かって進んでいこう」という、非常にシンプルで実践的な心のトレーニングです。
当院の減量外来でも、このACTの考え方を取り入れることで、リバウンドを繰り返してしまう心のクセを根本から変えていくアプローチを行っています。今回は、ACTの根底にある「6つの柱(コアプロセス)」が、実際の減量外来においてどう活かされるのか、具体的な例を交えながら分かりやすく解説します。
ACTを減量に適応する「6つの柱」と具体例
ACTには、私たちの心を柔軟にし、行動を変えるための6つの基本的な考え方があります。これらを減量外来の視点で見ていきましょう。
① 今、この瞬間との接触(マインドフルネス)
【意味】 過去の後悔や未来の不安に囚われず、「いま、ここ」で起きていることに意識を向けること。
【減量への適応例】
テレビやスマホを見ながらの「ながら食べ」をやめ、目の前のご飯の味や食感、そして自分の「お腹の膨らみ具合」に集中します。「イライラしたからなんとなく口に食べ物を運んでいた」という無意識の過食に気づき、本当に今食べる必要があるのかを冷静に判断できるようになります。
② 脱フュージョン(思考と距離を置く)
【意味】 頭に浮かんだネガティブな考えを「絶対的な事実」と思い込まず、ただの「脳内のつぶやき」として一歩引いて眺めること。
【減量への適応例】
「ケーキが食べたい!食べないとストレスで死んでしまう!」という強い欲求が湧いたとき、その欲求と一体化(フュージョン)するのではなく、「あ、いま私の頭の中に『ケーキを食べたい』という思考が浮かんでいるな」と客観的に観察します。思考と距離を置くことで、欲求に振り回されて衝動的に食べてしまうのを防ぎます。
③ アクセプタンス(受け入れる)
【意味】 不快な感情や食べたい欲求を、消し去ろうと抵抗するのではなく、そこにあるものとしてそのまま認めること。
【減量への適応例】
食事制限中に「お腹が空いた、イライラする、甘いものが恋しい」と感じたとき、その不快感を必死に抑え込もうとすると、逆にそのことばかり考えてしまいます。そうではなく「お腹が空いてイライラするのは自然なことだ。今、私はその不快感を感じているんだな」と、お腹が空いている自分をそのまま許可してあげます。不思議なことに、戦うのをやめると欲求の波は自然と引いていきます。
④ 文脈としての自己(観察する自分)
【意味】 「私は意志が弱い人間だ」といった固定されたセルフイメージ(自己概念)から離れ、それらの感情や思考をただ観察している「一回り大きな自分」に気づくこと。
【減量への適応例】
ダイエット中に一度ドカ食いをしてしまったとき、「私はやっぱりダメな人間だ、どうせ何をやっても痩せられない」と自分を責めて諦めてしまう人が多くいます。しかし、「ダメな人間」というのは事実ではなく、自分が作り出したただのレッテルです。「ドカ食いをしてショックを受けている自分」を、高いところから静かに見守るもう一人の主観的な自分(観察する自分)を意識することで、自己嫌悪から抜け出し、次の食事からまた淡々とリスタートできるようになります。
⑤ 価値(何が大切かを知る)
【意味】 「自分は本当はどんな人間でありたいか」「どんな人生を送りたいか」という、行動の方向性となる大切な願いを知ることが重要です。
【減量への適応例】
単に「5キロ痩せる」だけを目的にすると、辛くなったときに挫折しがちです。そうではなく、「痩せて健康になり、子供や孫と長く笑顔で走り回れる父親・母親でありたい」「体が軽くなったら、昔好きだった旅行に挑戦して人生を楽しみたい」といった、あなた自身の深い『価値』を明確にします。この価値が、目の前の唐揚げを我慢してヘルシーな食事を選ぶときの、強力な心の支え(モチベーション)になります。
⑥ コミットされた行為(価値に沿った実践)
【意味】 ⑤で決めた「価値」に向かって、たとえ途中で不快な感情や誘惑があっても、具体的かつ効果的な行動を責任を持ってとり続けること。当院では行動療法を適宜利用しております(※認知行動療法は厳密には相いれない)。
【減量への適応例】
「家族と健康に過ごす」という価値のために、「仕事帰りに甘い缶コーヒーを買う代わりに、炭酸水を飲む」「エスカレーターではなく階段を使う」といった小さな一歩を、毎日の生活の中に着実に組み込んでいきます。もし途中でサボってしまっても、責めることなく、再びその行動にコミット(約束)し直して一歩を踏み出します。
当院の減量外来が大切にしていること
ここまでACTの6つの視点についてお話ししてきました。これら6つは独立した考え方ではなく6つの視点をバランスよく取り入れることで、心理的柔軟性という十分な気づきと完全に開かれた心をもって、今この瞬間に存在し、自分の価値に従って行動する能力を目指すことが重要なのです。
ただ当院の減量外来のアプローチの基本(中心)にあるのは、あくまで「認知行動療法(CBT)」です。
認知行動療法によって、日々の食事記録(レコーディング)や、生活習慣の中に潜む「太る行動パターン」を客観的に見つけ出し、現実的で具体的な対策を一つひとつ組み立てていくことが、健康的な減量の確固たる土台となるからです。
しかし、人間はロボットではありません。「頭では分かっているけれど、どうしても心が追いつかない」「ストレスで食べてしまう自分を責めてしまう」という局面も必ず訪れます。
そのため当院では、認知行動療法をベースとしてしっかりと行いながら、患者さんのご希望やその時々の心理状態、お悩みの深さに応じて、今回ご紹介した「ACT」のエッセンスを適宜取り入れた治療を行っています。二つのアプローチを組み合わせることで、表面的な体重減少だけでなく、心も体も無理のない、リバウンドしない本当の健康を目指すことができるのです。
八女市黒木町の冨田医院では、地域の皆様の健康な体づくりを医療と心理の両面からサポートしております。減量についてお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。
冨田医院
医師 岡田一樹