
「痩せたいのに、ストレスがあるとつい食べてしまう」「少し食べすぎると、もうどうでもよくなってダイエットを諦めてしまう」……こうした経験はありませんか?
現在の肥満治療(減量外来)において、単に食事制限や運動を促すだけでなく、患者様の「心の動きや行動のクセ」にアプローチする認知行動療法(CBT)は、世界的な治療ガイドラインでも最高ランクのエビデンスを持つ主流の治療法となっています。
しかし、当院の減量外来では
、従来の認知行動療法だけではカバーしきれない限界を予見し、最先端の行動科学である「ACT(アクト:アクセプタンス&コミットメント・セラピー)」の要素を治療に深く組み込んでいます。今回は、治療の歴史を紐解きながら、なぜ当院がACTを重視するのか、その理由を深く解説します。
認知行動療法の歴史:現在は「第2世代」が主流
そもそも、認知行動療法(CBT)は最初から今の形だったわけではありません。その歴史は大きく3つの世代に分かれています。
【第1世代:行動療法】(1950年代〜)
ネズミや鳩の実験から生まれた「行動分析学」を基礎におき、「目に見える行動と環境の関係性」だけを変えようとした時代です。ダイエットで言えば「お菓子を買い置きしない」「体重を毎日記録する」といった環境調整がこれに当たります。
【第2世代:認知行動療法】(1970年代〜現在)
行動だけでなく、人間の頭の中の「認知(考え方や物事の捉え方)」に注目した時代です。現在、一般的な減量外来や心理カウンセリングでメインとされているのが、この第2世代のCBTです。
「どうせ私はリバウンドする」という極端な認知の歪みを見つけ出し、「そんなことはない、こういうデータもある」と、ネガティブな考えをポジティブ(あるいは論理的)な正しい考えへと修正しようとするアプローチです。
【ここに疑問符】なぜ「考え方を変えるアプローチ」には限界があるのか?
現在も広く使われている第2世代の認知療法ですが、近年の精神医学や臨床心理学の大規模なエビデンス研究(成分解剖研究など)により、一部の疾患や肥満治療においては「わざわざ面倒な『考え方の修正』をしなくても、効果に差が出ない(=認知療法の寄与が低い)」という可能性が次々と指摘されるようになりました。
人間の脳には、「特定の考えを打ち消そう、コントロールしようとすればするほど、かえってその考えに脳が支配されてしまう」というバグ(皮肉プロセス)があります。
ダイエットにおける典型的な悪循環:
「食べたいという欲求を抑えなきゃ」「ネガティブに考えるのをやめなきゃ」と思えば思うほど、頭の中は食べ物のことや不安でいっぱいになります。つまり、湧き上がってきた思考や感情を「変えよう・コントロールしよう’」と脳内で戦うこと自体が、過食や挫折を引き起こすストレスの元凶になっていたのです。
徹底的行動主義の派閥から生まれた「第3世代」の答え
この「考え方を変えようとするアプローチは無理があるのではないか」という疑問に対し、CBTの歴史の原点である「徹底的行動主義(Radical Behaviorism)」の派閥から強力なカウンターとして登場したのが、現代の最先端である【第3世代の認知行動療法】です。その中心に位置づけられるのがACT(アクト)です。
ACTを生み出した行動科学者たちは、「人間の脳の仕組み上、一度湧いた食欲や不安を消し去ることは不可能だ。ならば、認知を変えるのではない、それはそれとして『ありのまま受け入れる(アクセプタンス)』ほうが、はるかに合理的でリバウンドしない」という結論に達しました。
| アプローチ | 第2世代(従来の認知療法) | 第3世代(当院が重視するACT) |
|---|---|---|
| 食欲や不安に対して | 「食べちゃダメだ」「ポジティブに考えよう」とコントロール・修正しようとする。 | 「今、猛烈に食べたい波が来ているな」とジャッジせずありのまま受け入れる。 |
| 治療のゴール | 頭の中の「考え方」をスッキリ正しく変えること。 | 不快な感情を抱えたままでいいから、「本当に価値のある医学的な行動(運動や食事)」を黙々と実行すること。 |
当院の戦略:従来のCBTをベースに、ACTの要素をハイブリッド
では、当院ではこれまでのアプローチをすべて捨ててしまったのかというと、そうではありません。
当院の減量外来では、エビデンスの確立された従来の認知行動療法(第2世代)によるセルフモニタリング(記録)や環境調整を治療の主軸にしながらも、患者様の状態やご希望に合わせて、この「ACT(第3世代)」の要素を柔軟に注入しています。
とくに、湧き上がる感情や食欲を「ありのまま受け入れる」という感覚は、ご自身の治療実感として真に習得するまでに一定の時間を要することがあります。また、このアプローチへの向き不向き(相性)も患者様一人ひとりによって異なります。そのため当院では、一方的に治療法を押し付けるのではなく、診察の中でしっかりと話し合いながら、ACTの要素をどのように日々の治療計画に組み込んでいくかを丁寧に検討してまいります。
次回予告:ACTの具体的な仕組みについて
今回は、なぜ当院の減量外来がこれまでの古い認知療法に疑問符を投げかけ、ACTという新しい選択肢を導入しているのか、その背景にある歴史と理由をお話ししました。
私自身の臨床的な実感としては、じっくり時間をかけて患者様に寄り添う「クライアント中心療法(来談者中心療法)」のような深い共感的アプローチも、歪んだ認知を優しく解きほぐし、自己受容を促す上で確かに高い効果があると感じています。しかし、医療の現場において、より多くの患者様に普遍的な(万人に共通する)効果をもたらし、かつ限られた期間のなかでスマートに行動変容を達成できる「高い効率性」を兼ね備えているのは、このACT(第3世代の認知行動療法)だと考えています。
では、この「ACT」を使うと、具体的にどのようにして食欲の波を乗りこなし、リバウンドしにくい体を維持していくのでしょうか? 次回のブログでは、ACTが持つ具体的な6つのプロセスについてさらに詳しく解説します。
※ACTの詳しい話は下記ブログにて解説しておりますので御参照下さい
関連記事:当院が肥満症の治療にACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)を導入する理由
冨田医院 医師 岡田一樹