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皮下脂肪と内臓脂肪の違いから考える、脂肪冷却のリスクと代謝への影響

こんにちは。冨田医院の医師、岡田一樹です。
近年、美容医療やエステなどで「切らない脂肪吸引」として人気を集めている「脂肪冷却」。皮膚の上から特殊な機械で冷やすだけで脂肪が減るという手軽さから、興味を持っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、全身のエネルギー代謝やホルモンを専門にする医師の視点から見ると、この治療には「健康を損なうかもしれない医学的落とし穴」が隠されている可能性があります。
今回は、脂肪冷却の仕組みを解説した上で、なぜ当院の減量外来ではこの治療を採用しないのか、その医学的な理由を詳しくお話しします。
1. 脂肪冷却の原理
まず、脂肪冷却がどのような原理で脂肪を減らしているのかを説明します。
この技術は、「脂肪細胞は、皮膚や血管、神経などの他の組織よりも高い温度で凍りやすい(低温に弱い)」という医学的性質を利用しています。水は0℃で凍りますが、脂肪(脂質)はそれよりも高い約4℃で結晶化が始まります。
専用の機械でお腹などの気になる部分を一定時間冷却すると、周囲の皮膚や神経を傷つけることなく、脂肪細胞だけを狙ってダメージを与えることができます。ダメージを受けた脂肪細胞は「アポトーシス(細胞の自然死)」を起こし、数週間から数ヶ月かけて体内の掃除細胞に分解・吸収され、最終的に便や尿として体外へ排出されます。
一見すると「理想的な部分痩せ」に見えますが、ここからが代謝医学における本当の問題です。
2. 「皮下脂肪」と「内臓脂肪」の決定的な違い
私たちの体にある脂肪は、大きく分けて「皮下脂肪」と「内臓脂肪」の2種類があります。
- 内臓脂肪(お腹の中に溜まる脂肪):
胃や腸のまわりに付く脂肪で、男性や閉経後の女性に多く見られます。この脂肪は、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を直接引き起こす「悪玉ホルモン」を大量に分泌するため、健康を脅かす非常に危険な脂肪です。 - 皮下脂肪(皮膚の下に溜まる脂肪):
お尻や太もも、下腹部などの皮膚のすぐ下に付く脂肪で、女性に多く見られます。見た目のプロポーションには影響しますが、実は内臓脂肪に比べると生活習慣病との直接的な関連は低いとされています。
ダイエットで落ちる順番のルール
食事管理や運動によるダイエット(減量)を行うと、人間の体は必ず「危険な内臓脂肪」から優先的に落ちていくようにできています。これは体が健康を取り戻そうとする自然な防衛反応です。
これに対して、脂肪冷却が狙い撃ちにして落とすのは「皮下脂肪」だけです。お腹の中にある内臓脂肪を冷却することはできないため、健康上の害が大きい内臓脂肪はまったく減りません。
3. 皮下脂肪を減らすと内臓脂肪が増える?「脂肪吸引の論文」が示すリスク
脂肪冷却のように「部分的に皮下脂肪細胞を物理的に減らす治療」には、代謝の観点から非常に強い懸念があります。それは、食事量をしっかりと抑えなければ、かえって内臓脂肪や他臓器に脂肪が溢れ出し、健康を著しく悪化させる可能性が高いという点です。これを裏付ける可能性のある、美容医療における脂肪吸引の有名な論文データがあります。
お腹の皮下脂肪吸引を行った女性たちを対象に術後の経過を追った研究によると、術後に食事制限や運動を行わなかった(過食を続けた)グループは、数ヶ月から1年以内に、減少した脂肪と全く同じ量の脂肪が、なんと体に悪影響を与えやすい「内臓脂肪」としてリバウンドしてしまったことが確認されています。
ここで重要なのは、同じ「外科的に体重や脂肪を減らすアプローチ」であっても、病院で行われる保険適用の肥満外科手術(スリーブ状胃切除術など)とは根本的に別物であるということです。
保険適用の肥満外科手術は、胃自体を小さくしたり、腸の配列を整えたりして、物理的に「カロリーを吸収しにくい体(入り口の制限)」にします。カロリーの摂取量や吸収量が減るため、危険な内臓脂肪や異所性脂肪から劇的に減少していき、糖尿病などの合併症の改善も狙える「健康のための医療行為」です。
一方、美容医療の脂肪吸引や脂肪冷却は、入り口(食事量)を変えないまま、安全なエネルギーの貯蔵庫である「皮下脂肪」というクッションだけを部分的に削り取ってしまいます。食事量を抑えないままこの貯蔵庫を壊してしまうと、体は以下のようなリスクがあると考えられます。
① 「脂肪萎縮症(リポディストロフィー)」と似た病態へ
医学の世界には、生まれつき、あるいは途中で全身の皮下脂肪が消えてなくなってしまう「脂肪萎縮症」という難病があります。皮下脂肪という安全な貯蔵庫がないため、食事から入ってきた脂肪がすべて内臓や血液中にあふれ出し、糖尿病や脂肪肝、動脈硬化を若いうちから引き起こしてしまいます。
過食を続けたまま脂肪冷却で皮下脂肪の細胞を減らす行為は、部分的にこの脂肪萎縮症と同じ危険な状態を自ら作り出しているようなものなのです。
② 行き場を失った「異所性脂肪」による脂質毒性
安全なクッション(皮下脂肪)に溜まれなくなった脂肪は、お腹の中の「内臓脂肪」へシフトするだけでなく、「肝臓」に溜まって重い脂肪肝を引き起こしたり、「心臓」「筋肉」「膵臓」といった本来溜まってはいけない場所に直接入り込みます。これを医学的に「異所性脂肪蓄積(脂質毒性)」と呼びます。
異所性脂肪は細胞を直接傷つけ、インスリンの働きを劇的に悪化させます。結果として、糖尿病をはじめとする生活習慣病を急速に進行させてしまうのです。
つまり、「お腹の見た目は細くなったけれど、脂肪萎縮症のようなメカニズムで異所性脂肪の蓄積が起き、以前より重い脂肪肝や糖尿病リスクを抱えてしまった」という、最も恐ろしい本末転倒が起こり得るのです。
※内臓脂肪のリスクについて解説したブログは下記から
関連記事:BMI 25未満でも油断できない『内臓型肥満』の落とし穴
4. 当院の減量外来が「脂肪冷却」を採用しない理由
医療において最も大切なのは、単に見た目の数センチを細くすることではなく、「患者さんがこれから先、病気にならずに健康で長生きできる体を作ること」です。内臓脂肪や異所性脂肪を中心に落とし、全身の代謝を正常化させることが医学的に最も重要であると私は考えています。
そのため、冨田医院の減量外来では、食事量を抑えなければかえって健康を害するリスク(異所性脂肪の蓄積)があり、内臓脂肪には一切効果がない脂肪冷却の機器は、あえて導入していません(※美容のために行うことを否定するものではありません)。
当院では、生活習慣の改善を無理なく継続できるようサポートすることを重視しています。患者さん一人ひとりの状況に合わせて、必要に応じて薬物療法も併用しますが、治療の中心は生活習慣の改善です。特に内臓脂肪の減少を目指し、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の改善や、お薬の減量につなげることを目標としています。当院の減量外来にご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
ホームページは下記より参照下さい
『冨田医院 減量外来専用ホームページ』
冨田医院
医師 岡田一樹