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減量外来でお伝えしている「バスのメタファー」―食欲との戦いをやめる考え方―

減量外来でお伝えしている「バスのメタファー」―食欲との戦いをやめる考え方―

こんにちは。冨田医院の岡田一樹です。

当院の減量外来では、単に「食事を減らしましょう」「運動をしましょう」といった指示を出すだけでなく、患者様の「心」にも焦点を当てたサポートを行っています。その中で、私が診察室でよく用いるのが「メタファー(比喩・たとえ話)」です。

「医療の場でなぜたとえ話?」と思われるかもしれませんが、実はこのメタファーこそが、無理のない、そしてリバウンドしないダイエットを成功させるための強力な鍵となります。今回は、メタファーが持つ驚くべき効果と、当院の減量外来で実際にお伝えしている具体的なたとえ話について、深く掘り下げてお話しします。

1. メタファー(比喩)とは?その心理的な3つの利点

メタファーとは、一見すると全く関係のない別の事柄に例えて表現する方法のことをいいます。ただ、これは決して難しいものではなく、私たちの日常にもありふれているものです。例えば、重圧から解放されたときに使う「肩の荷が下りる」という言葉もメタファー(例え)の一つです。

私たちの外来では、この手法を意識的に治療に取り入れています。なぜなら、ただ言葉で説明されるよりも、私たちの心に深く作用する3つの大きな利点があるからです。

① 複雑な頭の中の考えを、圧倒的にわかりやすくできる

ダイエット中、私たちの頭の中には「食べたい」「でも痩せたい」「どうせ私はダメだ」といった、複雑で矛盾した思考が渦巻きます。これらを言葉のまま整理しようとすると脳が疲れてしまいますが、現実世界で自分たちが体験するようなシンプルな話に置き換えることで、自分の状態をすっきりと理解できるようになります。

② 想像することで「体験的な価値」が生まれる

人は、具体的なストーリーやイメージを頭の中に思い浮かべるとき、それを文字通り「体験」しているかのような感覚を覚えます。ただ「我慢しなさい」と言われるのと、物語を通じて「こういう状況だな」とイメージするのとでは、心への響き方(実体験としての価値)がまったく異なります。

③ 物事を客観的に見られるようになる

食欲や自己嫌悪の渦中にいるときは、視野が狭くなり、自分の感情に飲み込まれてしまいがちです。しかし、それをメタファーという「一つの絵」として外側から眺めることで、「あ、今の自分はこういう状態なんだな」と、一歩引いて冷静に(客観的に)自分自身を観察できるようになります。

2. 減量外来で使う「バスのメタファー」

当院の減量外来で、私が患者様に最もよくお話しするのが「バスのメタファー」です。これは、私が治療のベースにしている心理療法「ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)」において、非常に有名で強力なたとえ話です。

想像してみてください。あなたはあるバスの運転手です。そして、このバスが向かっている目的地は「健康で理想的な体重を手に入れたあなた」です。

しかし、あなたのバスには、お世辞にもお行儀が良いとは言えない「乗客たち」がたくさん乗っています。

  • 「今日くらい食べちゃいなよ」と耳元でささやく乗客
  • 「どうせお前は何をやっても長続きしない」と罵る乗客
  • 「仕事で疲れたんだから、運動なんて無理だ」と言い訳をする乗客

彼らはとても声が大きく、恐ろしい顔をしてあなたを脅してきます。「お前の言う通りに運転(ダイエット)するなら、バスを大暴れさせてめちゃくちゃにしてやるぞ!」と。

ここで多くの人がやってしまうのが、運転を止めて、乗客たちと喧嘩を始めたり、彼らをバスから追い出そうと格闘したりすることです。あるいは、彼らの脅しに屈して、乗客の言う通りのルート(過食や怠惰)へハンドルを切ってしまうことです。しかし、それではいつまで経っても目的地にはたどり着けません。

大切なのは、乗客たちが後ろの席でどれだけ騒いでいようとも、あなたはただ前を向き、目的地に向かって淡々とハンドルを握り、バスを進め続けることです。

騒がしい乗客(食べたい欲求やネガティブな思考)を無理に消し去ろうとする必要はありません。そもそも彼ら乗客たちは、後ろの席からうるさく語りかけてはきますが、実はハンドルを握ることはできないのです。ハンドルを握り、バスを進めることができるのは、私たち自身だけです。彼らがそこにいることを認めつつも、惑わされずに、あなたの目指す減量ルートを突き進んでいく。これが、減量における心の持ち方です。

※この「ACT」という心理的アプローチについては、以前のブログでさらに詳しく解説しています。心の仕組みを知ってより深くダイエットに活かしたい方は、ぜひこちらの記事もあわせてご覧ください。
肥満症の治療における認知行動療法の限界。なぜ当院の減量外来は「ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)」を導入するのか?

3. なぜ言葉による説明ではなく、あえて「メタファー」なのか?

「食欲が湧いても、無視して目標に突き進みましょう」と言葉で説明すれば、わずか1秒で済みます。それなのに、なぜわざわざこのような長い物語(メタファー)として説明するのでしょうか。それには明確な理由があります。

字義通りの理解を超えた「実感」を得るため

「我慢しなさい」という字義通りの言葉は、頭(理屈)では理解できても、心からの「実感」にはつながりません。しかし、「ああ、今の私は乗客にハンドルを奪われそうになっているんだな」というメタファーを通すことで、自分の心の中で何が起きているのかを、腑に落ちる感覚(体験としての実感)として得ることができるのです。

現実生活で起こっているパターンを「きわだたせる」

メタファーを使うと、日常生活の解せる解像度が上がります。例えば、仕事帰りにコンビニのスイーツコーナーの前で立ち尽くしているとき、単に「食べたい」と思うだけでなく、「お、またあのうるさい乗客が前に出てきて大騒ぎし始めたぞ」と、自分の現実生活で起こっているパターンが鮮明に浮かび上がって(きわだたって)きます。

日常のピンチで「上手に対応できる武器」になる

言葉だけのルールは、ストレスや強い誘惑にさらされた瞬間に吹き飛んでしまいます。しかし、メタファーのイメージは記憶に強く残ります。現実生活で「もうダイエットなんてやめたい」と思うようなピンチが訪れたとき、頭の中で「いや、私はこのバスの運転手だ。彼らにハンドルは渡さない」とメタファーを思い出すことで、感情に流されず、上手に対応して軌道修正できるようになるのです。

おわりに

ダイエットの旅路において、うるさい乗客(誘惑や不安)が一人も乗っていないバスなど存在しません。大切なのは、乗客をゼロにすることではなく、誰がリーダーとしてハンドルを握っているかです。

当院の減量外来では、お薬によるアプローチだけでなく、このように皆様が「自分の人生のハンドル」をしっかり握り続けられるよう、心のサポートも全力で行っています。

当院は八女市黒木町で診療しておりますので、何か気になることやご相談がございましたら、いつでもお気軽にご連絡ください。一緒に目的地へ向かって進んでいきましょう。

冨田医院 医師 岡田一樹

医療法人 尚恵会 冨田医院

医院名
医療法人 尚恵会 冨田医院
所在地
〒834-1217
福岡県八女市黒木町黒木87-1
電話番号
0943-42-0173
駐車場
有り